渇望。
諭吉です。
なんとなく、本当になんとなく気が向いたので無料公開用の文章を一編書いてみました。
いつものご愛顧に感謝を寄せて。
どうぞご査収ください。
「渇望。」
女は餓えていた。
もし、今横を通り過ぎた子供を好きにしていいと言われたなら
迷わずその首を脚で刈り、首の皮膚が破けるほどしつこく絞め付け、
ギャンギャンと泣き叫ぶこともできないくらい苦しめて、首の骨を折るだろう。
もし、高校の教室にいる生徒40名を好きにしていいと言われたなら
女子生徒が憧れている男子生徒を、目の前でなんども絞め落とし、
またカップルがいたなら一人の目の前でその相手を気が狂うまで苦しめる。
自分には、それをすることができる。
女は幼少の頃から格闘技に親しみ、一般には裏技と呼ばれる
相手を殺すための技術をいくつも体得している。
その過程で彼女は人の生き死にを手中に操ることのえも謂われぬ快楽というのを知った。同じ道場にいる門下生はほとんど彼女の技術によって病院送りとなり、道場は閉門を余儀なくされた。
彼女の腹のなかには、自分の体で人を苦めて殺したいという欲求が渦を巻いていた。
それは男の性欲にも勝る凄まじい欲求だ。
彼女は名前を菜月といった。
季節は夏。
菜月はタンクトップにショートパンツという出で立ちで外を歩いている。
すれ違う男たちの視線を浴びていることにも気が付いている。
でも男たちは菜月を思い通りに服従させ、自分の欲求を満たす想像はできても、菜月に組み伏せられて泣き叫ぼうとも容赦なく腕を折られ首を絞められて死ぬ想像はできない。
菜月の大きな瞳や小さな顔、そして女性として完璧といえるプロポーションは夏の虫を引き寄せる火だ。
引き寄せられた虫に待っているのは業火に焼かれて死ぬ未来だけ。
過去には何度か声をかけて来た男をホテルで瀕死になるまで絞めでいたぶった経験がある。だけど、菜月は満足できなかった。
必死に命乞いをする男の顔を蹴り飛ばしても、警察に電話をかけようとする腕を折っても、そしてもっとも得意とする脚を使う絞め技で何十回絞め落としても、まるで満足できなかった。
その日菜月はとある格闘技のジムに向かっていた。
何もできない弱い素人の男を絞めても楽しくないと理解した菜月は
ある程度知識があり、また技術も実戦経験もある相手を望んでいた。
とある低層ビルの二階に「真戦ジム」と大きく書かれている。
菜月は体の中に疼くものを止めることが出来ないほどだ。
扉を開けると40歳くらいのごつい男が菜月を迎え入れた。
「お待ちしていました。」
菜月はせめてもの社会性を振るって会釈し、
「日向菜月と言います。」と自己紹介した。
館長の夏野雅臣は菜月を中に招き入れると入会費や月謝などの料金システムを説明した後、
「今日は体験入門ってことで中を見ていってください」と朗らかにいった。
中ではウエイトトレーニングをするもの、サンドバッグを打つもの、そして少し小ぶりなリングでスパーリングをするものなど様々だ。
菜月は五分ほど中を見回した後、夏野雅臣に自分は経験者であり、レベルを知りたいからよければスパーリングをさせてほしい、
と願い出た。
体験入門者にしては大それた申し出であり、夏野も少なからず面食らっていた。
が、口角を少しひんまげて「面白いじゃないか」という顔になると
「やっぱ女性相手の方がいいよな?」と試すように聞き、菜月が「出来れば男性の、試合にも出ておられるような方を」というのを聞いて練習生の中から「遠山直樹」というのを呼び出した。
遠山は中量級の若手選手であり、再来月にはタイトルマッチ初挑戦を控えているという新進気鋭だ。
「日向さん、はっきりいって遠山は強いからね。」夏野館長は菜月に無理をしないようクギを刺す意味でそういうと
「じゃああとはよろしくな。」と遠山に言って消えて言った。
遠山は親しげに歳も近そうな菜月に話しかけていた。
「経験者っていうと、何をやっていたの?」
菜月は言葉少なく「あの、総合格闘技のようなものを少し、、、」と濁した。
遠山は菜月の太ももの筋肉感や背中の感じでそこそこはやっていたのだろう、と察したが
それでも女は女、少し寝転んで遊ばせれば満足するだろうと踏んで、ちょうどタイミングよく空いたリングに菜月を上がらせた。
菜月は上をタイトフィットするスポブラ、下を短い丈のスパッツに着替えると、柔軟体操もそこそこにお願いします、と遠山に声をかけた。
「じゃ、お願いします。」遠山が気軽な雰囲気でその声に応えて、スパーリングが始まった。
菜月はクッと腰を低くして構える、上半身を剥き出しにした遠山も同じく足を開いてそれに答えるように構える。
お互いの伸ばした指が触れ合って、遠山がグンと低くなって菜月の足首を手で取りに来た。
その速度に対応できるのは日本にいないと言われている遠山のスピードは、菜月が膝を落とし、乗り込んで行った遠山の首がまるで吸い込まれるように菜月の腋の下に正面から捕らえられる速度に蹂躙された。
ガキュゥッ・・・・。。
菜月はもしそれを見たものがいたら背筋が寒くなるほどの笑みを静かに顔に浮かべて
もう首を腋の中に差し出してくれた「あまりにも弱い男」を憐れむように、静かにその首を絞めた。
グググググググ・・・・・っっ。。。。
「っっっ。。。ァガッッッ・・・・!!!!!」
遠山はその状況をまるで信じられないでいた。
え、何・・?
苦し・・・。。。。。息が、、、、できない。。。??
自分のもっとも自信があるスピードが無視されて、
今何が起こっているのか把握できない状態にされて、
とりあえず息ができなくて、
よく見極めると自分の首には深く何かが巻きついていて、それがまるで初めからそこにあったように体に密着している。
右肩に菜月の胸が押し当てられて形を変えているのが分かる。
白くて滑らかな菜月の肌がクンっと隙間なく自分を抱き込んでいる。
絞められて、いる・・??
遠山はあっという間に目の前がぐらついて来たので慌ててすぐそこにある菜月の腰をタップした。
菜月はほとんどあっさりと何の感情もない様子で腋から遠山を解放した。
まだ寝転んでもいない状態で、遠山も菜月も膝をついた状態で勝負が決した。
遠山はするりと首から離れたのが菜月の腕であることに心底驚いていた。
そしてその迷いのない絞め技、冷たくて、残酷な絞め技は解放された遠山の体に深くダメージを残した。
遠山は自分の体がガクガクと痙攣を初めていることに気が付いていた。
もうあと一秒で絞め落とされていた。。。。
その事実が遠山を愕然とさせる。
遠山は自分の意思とは関係なく震える自分の体を誤魔化すように四つん這いになり、息を整えようとした。
だが菜月は攻め手を休めない。
四つん這いになっている遠山の背中側から体を密着させると内側から右腕を巻き取ると
一気に体を躍動させて、遠山をひっくり返すようにして右腕を持ち上げ、自分の両脚で挟み込み股間を通して胸に右手を沈めるようにして腕拉ぎ十字固めを極めようとした。
その速度は遠山を震え上がらせるには十分だったし、その体の圧力は、寝業師でもある遠山をして、かなう相手では無いとはっきりと理解することができるほどだった。
遠山は本能的防御で奪い取られていく自分の右手を左手でつかんだ。
菜月は腕を守る遠山をも想定内として、仰向けにひっくり返した遠山に右腕を掴んだまま馬乗りになった。
遠山は全く動きを止めない菜月に慄然としながらようやくフロントチョークのダメージから回復すると
馬乗りになって来た菜月の股間を胸に感じながら、何を狙っているのかを必死に見極めようとした。ここで見誤ると術中にはまってしまうことがある。
遠山はもうすでに体験入門者との軽いスパーリングごっこという認識を改めていた。
菜月の狙いが首だ、ということに遠山が気づいたのは
遠山が跳ね飛ばして馬乗りを回避し自分が上になる形を取った時だった。
だがその時すでに遠山の首と右腕には菜月の脚が下から迎え入れるように巻き付けられていた。
「さ、、三角絞め。。。。????」
菜月の柔らかくきめ細やかな内腿がたゆんと揺れたかと思うと頭を飲み込み、首に巻きついた時にはもうずっしりと重い肉の罠に変化していた。
一気に鬱血した遠山の顔は、赤黒く膨れ上がっていく。
「がヒィっっ!!!!!」
菜月の太ももが遠山の首をギュウギュウと締め付ける音は菜月と遠山にだけ知覚できる共通言語、2人の体の間に流れる電流のようなものとして作用している。
遠山はまるで手遅れなのに必死にもがいた。
右腕は捕えられ対角線にある菜月の腋に突っ込まれて挟み潰されていて使えない。
左手は必死に首を絞める太ももの付け根を掴んでいるが、指が弾き返されるほどのハリと筋肉の充実を誇っている菜月の絞め脚に通用するレベルではない。
やばいやばいやばいやばい。。
遠山の頭の中には警鐘が鳴り響いていた。
もうその頃にはジムに居る全ての人が2人のスパーリングを見ていた。
ギチギチと締め込まれていく首が、無残にも太ももの筋肉によってひしゃげていく。
指先の感覚が次第になくなって行くことを恐れた遠山が、菜月の太ももをタップしようとした時
「油断、しただけですよね?」
菜月の息ひとつ切れない冷静かつ冷淡な声が聞こえた。
「まさか、こんなのでタップしませんよね?」
遠山は挑発するような声にタップしようとしていた手を止めた。そしてまた、なんの足しにもならないが、菜月の太ももをつかみ首から剥がそうともがいた。
が、もう手に力が入らない。
だめだ、、、絞め落とされる。。。
圧倒的な苦しみの中に、最悪の調味料として絶望が交じる。
タイトルマッチを控える新進気鋭である自分が、何も出来ずに「女」に弄ばれている。
屈辱以上にこの状況を言い表す適切な言葉はない。
ジム内でも一目置かれ、格闘理論をぶち上げているのに、ふらっと現れた女の股に挟まれて無様に絞め落とされるのか?
ダメだ、そんなことありえない。
こうなれば持ち上げて叩き落すバスターを使ってでもこの三角絞めをはずして、仕切り直さないと。
遠山は菜月の手加減によって意識を生きながらえさせていた。が、当の本人はそんなことにも気づかず、男が女にやるにはあまりにも恥ずかしいバスターを狙い、体を動かしていった。
遠山に残されたのはもう姑息な手段しかなかったのだ。
菜月は思うがままに自分の太ももの絞める圧
力をコントロールし、まともな思考ができない程度に絞めながら、若きグラップラーの顔が白くて柔らかそうな自分の太ももの間でどす黒く変色し、苦痛に歪み、信じられない、という顔で自分を見上げるのを堪能した。
そして、遠山が腰を上げて菜月を持ち上げようとした瞬間、
菜月は両手で遠山の後頭部をクラッチして掴み自分の体に遠山の顔を密着させるように押さえつけて、上へ上がろうとする遠山の体の動きを先取るように腰をグンっと突き出した。
遠山は体が跳ね上がるような途方もない苦しみを飲み込まされたようになり、
ついさっきまでギリギリ保っていた思考は雲散霧消し、もう、1秒と耐えていられないほど深く深く極まった下からの三角絞めに、
必死に菜月の骨盤のあたりをタップした。
ほとんど命乞いのようなタップだった。
が、菜月は勢いもそのままに腰を切る。
グキっと遠山の首から危ない音がするが、菜月は構わずグイグイと遠山の頭を自分の股間に押し込めたまま腰をひねり、自分の体をうつ伏せにする。
「ゲアアアアっっ!!!!グェアアアっっ!!!」
菜月の内ももに喉を潰された遠山は、やめてください、許してください、という意味の悲鳴を上げてもう戦意をなくした自分の首を巻き込み、馬乗りになってまで太ももで絞めようとしてくる菜月を止めようとした。
が、菜月はグイグイと腰をねじって泣き叫ぶ遠山を崩していくと、ついに膝をつき、遠山のねじれた首の上に股を乗せることに成功した。
菜月も額をマットに着き、恥骨と額でブリッジをするように背中を丸め少し尻を上げながら、支点のひとつである恥骨を器用に遠山の喉に突き立てていく。
遠山の悲鳴は、菜月の股に覆いかぶさられ、くぐもった呻き声のように、菜月の尻の下から漏れていた。
「あの、少し本気をだしてくれませんか?」
もう口を聞ける状態ではないとわかっているのに、
菜月はわざと丁寧に、首を絞められ半死半生の相手を挑発した。
遠山は涙を流しながら柔らかくも重く、喉を犯すむちむちの太ももが彩る地獄の中へ飲み込まれていく。。
グイグイと「締め付ける」様子をジム内に居る全ての人に見せ付けるように菜月はわざと尻をグイグイ動かし、太ももがムッチリと遠山の喉を押しつぶす動きを何度も繰り返した。
その様子を見ていた周りの練習生は、皆一様に言葉を失いジムの期待の星がふらりと現れた綺麗な女に潰されていくのを見守ることしかできないでいた。
菜月の馬乗りに覆いかぶさっての三角締めは、その技の効果や三角絞めという技術そのものよりももっとエグくて心を擦り潰すような残虐なもののように見えた。
菜月の食い込んだ尻の中から生えたように見える遠山の真っ赤になった胸や、体には筋という筋が浮かび上がり、
のたうちまわる様子はまるで猛毒を飲まされて死ぬ直前の哀れな死刑囚のようだ。
死刑囚が生き残る可能性は、もう無い。
遠山の左手が苦し紛れに掴んだ菜月の太ももや尻に柔らかそうに遠山の指が沈むのを見て、その残虐性はより一層色を濃くする。
ジムの星を潰しているのは紛れもなく女であるということの証左であり、どうしようもないところまで追い込まれてしまった遠山の苦し紛れの抵抗は誰の目にも滑稽に映った。
そして、遠山の左手が助けを求めるように虚空を二度、三度掴もうとして、身体中が唐突に痙攣を始め、ガクガクと糸の切れたマリオネットのように遠山の左腕がリングに投げ出された。
「お。落ちた、、!!落ちた!!!!」
ジムの練習生が菜月の股のなかに顔を突っ込んで痙攣し始めた遠山を守るために口々に叫んだ。
菜月はその声を焦らすように、ゆっくりと
上体を起こした。
菜月の尻に覆われていた遠山の顔が、首の上に馬乗りになったままの菜月の股に挟まれた状態で衆目に晒された。
その顔は完全に白目を剥き、眉毛をハの字にひんまげた苦悶の表情を顔に貼り付けたまま
口から真っ白な泡をゴブ、ゴブ、と断続的に吹き出していた。
その様子はいかに強烈な絞めにやられたのかを実に端的に表していた。
菜月は、その無様な顔を上から満足げに眺めながら首の上から退かない。
上に乗っているだけでも首は極まり、体重で十分首が絞まる。
意識を失っているため筋肉は弛緩し、沈み込む菜月の尻に喉が侵されるのを防ぐこともできない。
おい!!早くどけよ!!危ないよ!!
怒号が飛ぶ。
菜月がその声の方を、ゆっくりと振り返り、ニヤリと背筋も凍るような微笑を見せたかと思うと
意識を失ったままの遠山の、首と一緒に挟み込んだままの右腕を取り上げ、そのままおもむろに十字固めに極めた。
意識を失っている遠山は抵抗できるわけもなく、
痙攣に体を突っ張らせたまま、右腕は菜月の股に沿わされ完全にしなってしまった。
菜月は死者に鞭打つように、まるで試合を決める時のように完全に尻を浮かせて、股の中でひしゃげた遠山の右腕を完全に極めた。
ミシミシ、メキメキ、、という骨が裂けていくような音がジムの中に響く。
遠山の顔は真っ青に染まり、ゴボゴボと吹き出す泡の勢いを強めた。
おい!!
何するんだ!!!
やめろ!!!
怒号が飛び交う。
菜月は嬉しそうな顔をして、腰を振る。
ほら、もうすぐ、折れるよ?
その時、真っ白いタオルがリングに舞った。
館長の夏野が投げ入れたのだ。
ジムの中の怒号が一気に静まる。
夏野はリングのエプロンに上がり、
ロープをくぐった。
そして静かな声で、
「すまない、遠山の負けだ。。。うちの、負けだ。。。」
と、言った。
練習生が悲痛なうめき声をあげる。
菜月はまだ遠山の腕を離さない。
そしておもむろに夏野はその場で土下座をした。
「頼む!!もう許してやってくれ!!そいつは、遠山は、俺たちの希望の星なんだ!!!俺たちから、唯一の希望を奪わないでくれ・・・!!!!」
夏野は涙ながらに訴えた。
すると菜月は腕を壊れたおもちゃを放り出すように投げ出すと、すくっと立ち上がり、夏野と遠山を見下ろして悦に入ったように微笑むと「くだらない希望もあったものね。」と言い放ち、全てに興味を失ったようにリングを降りた。
もう誰も言葉を発することはできなかった。
菜月が歩を進めると人だかりに道ができた。
菜月がジムを後にすると、ジムの中から遠山を心配し、介抱するような声が響いた。
菜月は、まだ餓えていた。
終わり。
さて、いかがだったでしょうか。
今回は古巣であるpixivでも公開しております。
M格闘ファンに少しでも貢献できれば幸いです。
M格闘という狭い領域の中でのみ存在する諭吉という物書きですが、
これからも狭く深く深く深く深く、深く深く深くふかーーーーーく、
この領域を掘り下げ、皆様にご満足いただけるコンテンツの創造を続けて行きたいと思います。
長々読んでくださってありがとうございました。
心から感謝いたします。
諭吉。