GAME。

2019年10月16日

急に寒くなってきました。
諭吉です。去年は寒暖差にやられて喉を潰しましたが今年はまだなんとか平気です。
台風で被害に遭われた方はもちろん、一刻も早い復旧がなされますようにご尽力くださっているご関係各所の皆様にも心よりお見舞い申し上げます。

さて、私の方では新しいシリーズをちょこちょこと書いております。
そのうちの一つ「GAME」というものを紹介します。
元ネタはかなり小さい頃に見た「世にも奇妙な物語」でした。
話の概要は忘れたんですけど、友達の綺麗なお姉ちゃんが実にやばい人で云々という
まあこれもまた自分の歪んだ性癖を作り上げた要因でもあるのかなと思いながら
せっせと書いておりました。




GAME。

クラス替えがあった今年、夏休みを終えて
秋が来る頃には秀一と達也は仲のいい友達になっていた。

小学五年生、毎日が楽しく
輝かしい日々の中を生きる頃だった。

達也は秀一の家にはよく遊びにもきた。
平均的な家である秀一の家には、
やはり平均的なゲーム機や、遊び道具があった。

家の近くには公園もあって
二人でボールを持って出かけたりもした。
休みの日には、自転車に乗って少し遠くへ、
とはいっても彼らにとっては、だが
出かけることもあった。

秀一にとって達也はいつしか
親友といってもおかしくない存在になっていた。
そろそろ季節は冬へ差しかかろうとしていた。

だが秀一は達也に関していくつか不思議に思っていることがあった。

まず家に遊びに行かせてくれない。
これに関しては、達也の家は
共働きで家に親がいないため
友達を呼ぶのは避けるようにと言われてる
という説明を受けたことがある。

そしてもう一つは
もしかすると達也は、いわゆる
「ギャクタイ」を受けているのではないか。
ということ。

初めて秀一がそう思ったのは、
達也がある日首に痣を作って学校に来た時だった。

「あれ?達也、首どうしたの?」

と、秀一が聞いても、
達也は「ちょっとぶつけたんだ。」
と答えたきり口を閉ざした。

殴られたような青あざではなく、
鋭いもので傷つけられたような、
痣。

秀一は小学生ながら、「ふーん」と空気を読んで
それ以上追求することはしなかった。
きっと本当にぶつけたのかもしれないし。と。

またしばらくすると、今度は腕を痛そうにしている。
「どうしたの?」と尋ねると、
寝違えた。と答えが返ってくる。
少し動かすとツッ。。。。といって顔をしかめる。
秀一は少しだけ、疑念を深めた。

思い切り顔を殴られたと一目でわかるような
そんな傷をつけられて学校に来ることはなかったが、
それでも何かしらの「外傷」を受けて
学校に来た日は達也は少し大人しく、
どこか落ち込んでいるような雰囲気があった。

服を着ていてよく見えないが、
きっと達也のお腹や背中にも何らかの傷があるんだろうな、
秀一はそんな風に思っていた。

しかし秀一にとって達也が親友であることに違いはない。

ある日、何となく遊んでいる流れで
自転車に乗って達也の家の前まで送っていくことになった。
秀一はその家の大きさに驚いた。

白い外壁に、広い庭。
庭にはブランコみたいなものまでしつらえられている。
冬のすかんと抜けた青くて高い空と相まって、
その大きな綺麗な家はまるで
外国のドラマに出てくるような風格すらあった。

「すげえええ!!!おっきいお家だなあ!!」

秀一があまりにもガキっぽく驚くものだから、
達也は少し笑った。

「あはは、でも中は普通だよ。」

「へえええ!!すごいなあ!!見てみたい!!」

「見るまでもないよ。」
やはり達也は秀一を家に入れることには抵抗があるらしかった。

その日から秀一は事あるごとに達也を家の前まで送った。

二人で自転車を漕ぎながら
秀一は達也に、どれほど達也の大きな白い家に憧れているかを
こんこんと語って聞かせたが、達也はニコニコと微笑んで
まあ、またそのうちね。とかわすばかりだった。

そんなことを繰り返していると、
ある時達也の家の前に誰かの影があるのを見つけた。

それが制服を着た女子高生であり、
おそらく達也の姉であることを秀一は理解した。

「こんにちはー!」

達也がなぜか顔色を悪くするのにも気づかず、
秀一は達也の姉と思しき女子高生に朗らかに挨拶をした。

彼女は秀一がこれまでにみたことのない美人だった。
髪の毛はさらりと長く、
整った顔立ちに瞳の色が薄く、ブラウンがかっていて、
あまり達也とは似ていない。
すらりと細身のその体は華奢で
それでいながらスカートから伸びる膝から下は
少し健康的な筋肉を帯びているようだった。

透き通るような白い肌は家の豪奢な感じとよく似合っていた。
それこそテレビに出てくるお家と住人を
そのまま引っ張り出してきたような非現実感すらあった。

強烈に美人な達也の姉は
その高貴なルックスから、少しとっつきにくい感じもしたが
意外と穏やかで、明るい雰囲気で秀一に
「こんにちは。」と返してくれた。

秀一は一瞬心臓が止まったのを感じた。

「達也のお友達?」
彼女は表情を柔らかくして、秀一に話しかけた。
秀一はただそれだけのことで顔がポッと赤くなるのが自分でもわかった。

初恋だった。

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「あの・・・あの・・・・はい・・・お友達・・・です・・。」

一瞬前のほとんどデリカシーのない大きな
元気のいい挨拶とは打って変わって、
秀一は急にウブな一人の男子に成り果てた。

「いつも達也と仲良くしてくれてありがとうね。」
にこやかにそういう彼女に顔を覗かれるまま、
秀一はモゴモゴと口ごもって俯いてしまった。
まともに顔を見ることもできないのだ。

「寒いから、中で少し休んでいけば?」

と彼女は家の門をきいっと開きながらいう。
秀一は念願叶って達也のとこの、この白い大きな家に
侵入できるチャンスだ!と喜び勇んで顔を上げてみるも、
「秀一は、、、塾があるから。。。もう行かないと。」
と、達也が言った。

「そう?じゃあ、気をつけてね。また遊びにおいでね?」

そういうと、彼女は玄関までの少しの階段をとっとっと、と昇って
家の中に入ってしまった。
秀一はその少し下の角度から彼女のスカートの中が見えそうになるのを
必死に目を伏せて見まいとして頑張ったが、
同時に達也に対しての怒りが燃え上がった。

「おい!なんでだよ!僕は塾なんか行ってないぞ!!」

小さい声ながら、語気を強めた声色で
達也に詰め寄ってみたが、達也はごめん、と小さい声で謝った。
それっきりだった。

次の日、また達也は首に切り傷みたいな、細長い傷をつけていた。
目の周りにはぶつぶつがあって、思春期に差し掛かる頃には
ニキビができやすいと聞いたことがあったが、
きっとそれではないだろう。と、秀一も気が付いた。

『やっぱり、ギャクタイだ。』

秀一は、実情を探るべくやはり達也の家に潜り込むことを決意した。

『ギャクタイが発覚したら、ジドウソウダンジョというとこに行くぞ。』

秀一は鼻息も荒く、達也に
「僕、達也のお姉さんに初恋しちゃったみたいなんだ。」
と、唐突に申し入れた。
達也は一瞬豆鉄砲をぶち込まれた鳩みたいな顔をしたが、
すぐに首を横に振った。
「そりゃだめだ。やめたほうがいい。あれはない。」

「いや、達也、君は弟だからそういうんだ。でもあれはすごい美人じゃないか。僕はとっても、友達になりたいと思うんだ。恋人になりたいとは、思わないよ。年がすごく違うもの。でも、少し仲良くなって名前を覚えてもらうくらいのことはいいじゃないか。な。頼むよ達也。一生のお願いだ。僕を君のお姉さんに紹介してくれよ。このとおおおおおり!!!!」

秀一は必死になって家に上がる口実をまくし立てた。
しかし彼女に恋をしているのは間違いないわけで、
これはいわば実益を兼ねた交渉でもあるわけで。
秀一は我ながら賢い作戦だ。と内心ほくそ笑んでいた。

達也はその年にしてそんな渋い顔よくできるな、
と秀一が思うほどの渋い顔を見せながらも、
親友の頼みなら断りきれない、と覚悟を決めたように
「じゃあ、わかったよ。」
と教室の片隅でついに自分の家に秀一をあげることを決意した。

「あの・・・あの・・・・・あの・・・・・・・」

初めて上がり込んだ達也の家の、
達也の部屋のベッドの上で、制服から家着に着替えた姉を目の前にして
秀一は定期的に「あの・・・・」を繰り返す
無様なロボットに成り果てていた。

断熱材がしっかりと仕事をしていて、
家の中には外の寒気がまるで侵入しない。

彼女はモコモコのタオル地の長袖と、太ももの付け根から露出する
ショートパンツスタイルの家着に身を包んで、
まるで空想上の動物のような、有り体に言えば妖精のような、
そういう美しさと可憐さを存分に発揮しながら
顔を真っ赤にして「あの・・・」を繰り返す
バカな秀一ロボットの言わんとすることを「うん?うん?」と
辛抱強く聞いてくれている。

なんとかこの出来損ないポンコツロボットが言わんとすることを
汲もうとしてくれる眼差しがさらに秀一を追い詰めていく。
ベッドの上にぺたんと女の子座りをした彼女の
透き通るように白い太ももが艶かしい。
手を触れてしまえばきっと後戻りできなくなるだろうという
恐怖にも似た誘惑が秀一を怖気付かせる。
さらに生まれて10年間感じたこともないほどのいい匂いがする。
上品で、甘くて優しくて、この匂いに溺れていくのなら
命だって惜しくない。と、秀一は言葉に出せずに思っていた。

勉強机に座ってその様子を眺めている達也は、
複雑な心境を胸いっぱいに抱えていた。

結局秀一は自分の名前を伝えることもできず、
なし崩し的に「お友達くん」という屈辱の仮名を彼女から授かった。
「ねえお友達くんも、ゲームしようよ。」
彼女に誘われるがまま、秀一はテレビにつながった
コンピュータゲームに興じた。
画面よりも隣で真剣な眼差しを画面に向ける、
彼女に、秀一は釘付けだった。

半時間ほどそんなことをしていると、
彼女は唐突に「ねえ、達也。お友達くんも「ゲーム」するかなあ。」
と達也を見向きもせずに言った。

達也は恐れていたことが起こった、
と、表情に表しながら「だめ。。ダメだよ。ダメに決まってるじゃん。」
とほとんど怒ったような声色でまくし立てた。

「だよねぇ。せっかくお家に来てくれたお友達だもんね。」

秀一は一体なんのことか分からず、彼女の方を眺めると、
その顔にはこれまでの優しさや、聡明さに成り代わって、
ぞくっとくるほどの「冷たさ」が居座っていた。

「じゃあ、今日は見学でいいや。
『お友達くん』、うちのゲーム、見ててね。」

彼女はコントローラを置いて
秀一にむきなおりその整い切った顔に
氷の微笑みを浮かべていた。

急に外の気温が足先を凍らせたような寒さを感じた。



よろしければご一読を。

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